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 「少部数の歌集は高くて当たり前」というのが常識とされてきたが、このところ一般書と変わらない価格の歌集が相次いで刊行されている。「作品さえよければ価格など些細な問題だ」と考える人もいるだろうが、私はそうは思わない。若い才能を若いうちにデビューさせ、歌集を多くの人に読んでもらう――これは、短歌の世界を豊かにするうえで大事なことである。
 書肆(しょし)侃侃(かんかん)房(ぼう)(福岡市)が創刊した「新鋭短歌シリーズ」は、四六判のソフトカバー、定価一、七八五円(税込み)。第一期(全十二冊)として五月に、木下龍也『つむじ風、ここにあります』、鯨井可菜子『タンジブル』、堀合昇平『提案前夜』(いずれも第一歌集)の三冊が同時刊行された。
 一方、風媒社(名古屋市)は、秋月祐一の『迷子のカピバラ』を出版。横長の変型判で、函入りの瀟洒な造本であるうえ、著者本人の撮影したカラー写真がふんだんに使われている。が、価格は一、八九〇円である。
 いったい、どうしてこういう価格設定が可能だったのだろう。書肆侃侃房の編集者、田島安江さんは「本はともかく人の手に渡らないと読んでもらえない。歌集を読みたいと思う若い人にとって買いやすい価格に抑えたかった。そして、いま歌集を出したいという若い人の思いを形にしたかった」と話す。「新鋭短歌」シリーズは自費出版でなく、著者には印税が入る。五月に出た三冊とも初版千部だったが、発売一週間で増刷が決まったという。
 『迷子のカピバラ』は自費出版だが、風媒社の編集者、劉永昇さんは「ターゲットとなる読者層に適合し、かつ市場性が高いかどうかを考えて決めた価格」と説明する。
どちらも一般書を刊行する出版社なので、歌集一冊ごとに採算が合わなければいけない専門出版社とは事情を異にするだろう。しかし、書店に出回る歌集の少なさを考えると、自費出版だからこそ著者が納得できる価格に設定しても構わないのではないか。
秋月祐一さんは長らく「何で歌集ってみんな同じ判型なんだろう」と思っていたと話す。そして「歌集というものの形やあり方をもう一度見つめ直すところから始めたい」と考え、十五年間の作品から百首を精選し、自分にとって初めての作品集『迷子のカピバラ』を作り上げたという。
  ぼくのなかで微睡んでゐた合歓の木をよびさますやうに夕立がくる
   秋月祐一
秋月さんは「書店の詩歌のコーナーだけでなく、写真・アート関係の書棚に置かれることで、未知の読者と出会えれば嬉しい」と期待する。価格や装丁も含め、私たちはもっと自由に自分の歌集を演出してよいのだと思わされる。